【デザインと思想】#3 神経系イメージ学の根源――アビ・ヴァールブルクのパトスフォルメル
20世紀、ドイツの美術史家、アビ・ヴァールブルクは、大銀行家のもとに生まれ、家に併設してあった図書館を子供の頃から利用し、本を読むには苦労しなかったという。後に彼が、いわゆる「情念定形」(パトスフォルメル)という概念――偉大なる功績を後世に残し、ヴァールブルク学派と呼ばれるものを形成することは誰も予想できなかったであろう。ではその情念定形とは何か。 ヨーロッパに於いて古代復興運動として、14〜16世紀にルネサンスが勃興したことは周知の事実である。それに伴ったデザイン物や美術品などはアナクロニスティックに復活した。つまりそれらは、古代の模倣なのである。そこに着眼したヴァールブルク公は、フロイトの精神分析理論を使用し、形態を比較し、単なるアナロジーにとどまらない、「情動の連関」を網の目状に徹底比較し(深澤直人が著書『デザインの輪郭』に於いて、モノどうしが網の目状に見えると述べているが、ここから影響を受けたものと筆者は推測する)、それを歴史の大航海図(ムネモシュネアトラス)として度々公演を行った。以下はそれらを編集し直した図である。 ムネモシュネアトラスの相関図。©TANAKA Jun ムネモシュネアトラス、パネル。©TANAKA Jun ヴァールブルク公は、精神病にかかり亡くなってしまう。後にそれはヴァールブルク病と呼ばれるようになる。 彼が残した偉大なる功績を引き継ぐヴァールブルク研究者は日本ではまだ少ないが、東京大学総合文化研究科、超域文化科学専攻教授で表象文化論学会長である田中純御大を始め、徐々にその認知度は高まりつつある(筆者もそれを目指したことがある)。いずれにせよ後継者探しが喫緊の課題である。 興味のある者は以下を入門書として参照のこと。 田中純『アビ・ヴァールブルク 記憶の迷宮』、青土社、2011。(第24回サントリー学芸賞受賞)