雪風巻





いつものように、顔を洗って、珈琲の支度をし、いくらかの本に目を通す。
そして、タバコがないと言っては、近くの商店へそれを買いに行く。

そんな日常の中で、ふと風に乗った木霊を受け取る

これは、あの日からの呼び声なのか


振動する空気は、

街角に掲げられた、

看板や電線を揺らし、

それは波動のように、

約500km離れたこちらまで、響いているよ


振り返れば、路地は、その記憶の路地としてのデジャヴュ―を起こし、

かつて、確かにそこにあった物事を思い起こさせた


(あの日の、暗がりに灯された白熱灯

世界から切り離され

おもちゃ箱をひっくり返したような

その街、その空間)


物質に固く繋ぎ止められた言葉から吹いた突風は、

次第に弱まった。


私は泣いた

おそらくこの泪は、

地表にあいた無数の〈穴〉から染みだし地下水へと変わり、

それが湧水となりまた地表を流れ、

〈母〉なる最上の流れから支流へと合流し、

堰止め湖へ到達する。

蒸気になった水分は雲になり、

それらは冷やされ、雪となる。


そういえば、

今日

涅槃雪は、

奥羽山脈を優しく包み込んで、

白んだ情景をつくりだしていた。

きっと、君の心の師も、この光景を見たことだろう


午後4時。

仰度17度から差し込む日足は

本棚で切れ目をつくり

陰と陽の境界線は直線的に伸びて

頬を照らした




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