君の残像




多くを知りすぎてしまった君は

その日から、その無邪気な笑顔に陰りが出始め

わたしは、それが失われるごとに、虚しさがこみ上げた

一緒に思い描いた、旅先の景色も、

定義された理論も、

今では野暮で、意味を持たず

ただ、呆然と

君のいない、色の無い世界を

無になった眼差しで、見つめることになってしまった。

未練がましい人は鬱陶しいという、どこかで見かけた言葉通り

君は、もう、張り詰めた糸がぷつんと切れていて、

既に、違う道を歩み始めているのかもしれないが、

こんな散り散りになったわたしにも

少し、何かを書く権利を、与えてくれ。

最愛の、君との思い出が

せめても

綺麗に、ゆっくり、

締めくくれるように。



言葉とともに歩んできた

君のために、暖められた事柄は

一瞬で、色褪せていくことがある。

ただそれは、残された痕跡が

ひとりでに、体現すること

わたしを構成する長い道程は、次第に固まっていくだろう。

0と1の数学的な

言葉のミクロコスモスに依存しなければ、

限界であり

全てが

そんな司令系統として、見えることすらあった。

そんな、もう一つの世界

ザイオンの渓谷から発せられたそれらに

しかし、精神は、

やはりついてこなかった。

壊れた三角形の

父としての言語は、

想いと乖離を起こし

わたしは、幼い頃から

浮遊しているのかもしれない。

そんなことに今更気付いても

もう、手遅れなんだ。


すれ違った想いは、

噛み合わなくなった

磨り減ったクラッチ。

空転したまま、互いに背を向け、

むず痒く、どうにもできないまま

動けなくなってしまった。

力強さは、もう残されていない

ただ、それでも、

君を喜ばせてあげるために

大切に、大切に、

送り出してあげたい。

さあ、顔を上げて



言葉を超えたものを、体得している君は

生き物たちの合図が解る。

小鳥や魚、鹿たちは、

純粋な君のところへひとりでに寄ってきて

仲良く、心の詩に、耳を澄ませることだろう。

風は、君の白いワンピースを揺らし、

草花とのコントラストをなす

ひとつの風景となった君は、

静けさを取り戻した世界で

穏やかになれる。



夜になってしまった

煙草の煙を燻らせ、

外を眺めている。

また悲しみがこみ上げる。



わたしは、

君が裸足になって、はしゃぐ砂浜で

乱れた髪をかき上げながら

ふり返っている、モノクロの写真の構図を

何度も思い浮かべていたのだけれど

結局、君は被写体となって現れることは、

一度もなかったんだね。

ただ、あの雨の日、

少し、機嫌を悪くしながらも、

にやりとこちらを振り向いた君の残像が

今でも脳裏に焼き付いている。



また、孤独な遊歩に戻るのだろうか

夜道を照らし出す明かりを見ると、

まだ君が、隣で微笑んでいるような気がしてならない。




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