「飛行機行った」

僕の家の上空は、昔から飛行機の通り道になっている。
様々なものごとが移り変わっても、それは変化していない。

今の家は昔建っていた家を取り壊して同じ場所に建てられ、また周囲の風景は現代的になり、家族が引っ越してきたり、出て行ったり、近くの公園は遊具の配置が変えられたり、車が買い換えられたりして時代の景色が移り変わっている。

普段生活しているとそんな時代の変化など気にも留めず、ただただ時間の流れに抵抗できずに、常に「今」ばかり見ている。
実際、自分の中でも遠い昔のことは記憶の奥の方に閉まってあり、なかなか思いだせない。

でも、さっき飛行機がたまたま頭上を通り過ぎ、その古い記憶が甦った。

道路がまだ舗装されていない、砂利道だった頃。昔の家の間取りも今とは違い、玄関が東側にあった。僕がまだ幼稚園に通っていた頃、祖母はその玄関から飛行機が通る度、
「ほら、ほら、飛行機行った!」
と言っては僕を外へ連れ出し、飛行機が飛んでいくのをよく一緒に見ていた。

僕は片親なので、祖母が小さいころその代わりをしてくれていた。
僕を背中によくおぶっていたので、腰が曲がってしまったと以前話していた。
料理も上手だった。レシピなど何も見なくても、何でも作ってくれた。
とても明るくて、いつも格言的なことを言うちょっと気が強いところに難があったものの、優しくしてくれた。
そんな祖母も90になり、今では介護施設にいる。言葉をはっきり喋ることも、立ち上がって歩くことも不可能になった。介護疲れを知っているひとは知っていると思うが、実際は厄介者のようになってしまうのだけれど、そんなことを思い出すと、やはりもう少し面倒を見てあげないといけない。最近具合が悪いのが気にかかるのだが。

時が流れ、環境が変わった今も、飛行機はその頃と変わらず、
音を立てて家の上を飛んでいく。

そんなことを、昔遊んでいた公園のベンチに腰掛けて、タバコを吸いながら考えていた。その頃はタバコなど吸っておらず(吸っていたら困るが)、友達とそこで砂遊びをしたり、自転車でレースをしていた。僕自身はあの頃から何か変わったのだろうか。懐かしくなって、また、少し寂しくなって涙がこぼれ落ちた。

嗚呼、また飛行機が行った。


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